古民家再生

なぜ今、信州で古民家再生?移住者があえて「古い家」を選ぶ3つの理由と、知っておくべき寒さ対策

なぜ今、信州で古民家再生?移住者があえて「古い家」を選ぶ3つの理由と、知っておくべき寒さ対策

長野県の山々が雪化粧を始め、凛とした空気に包まれる季節になりました。 都市部から長野県への移住や二拠点生活を検討されている方々とお話ししていると、ここ数年、ある変化を感じます。

それは、「ピカピカの新築」ではなく、「古民家」や「中古住宅」をリノベーションして住みたいという声が圧倒的に増えていることです。

一見すると、寒くて不便そうな古民家。なぜ今、30代〜50代の現役世代が、あえてその道を選ぶのでしょうか? 今回は、信州の建築事情を知り尽くした筆者が、その人気の理由と、誰もが不安に思う「信州の冬」を乗り越えるための現実的なノウハウをお伝えします。

理由1:新築では手に入らない「時間」という価値

古民家再生を選ぶ最大の理由は、「お金を出しても買えない歴史的価値」にあります。

特に、かつて養蚕業で栄えた上田地域や伊那谷、善光寺平周辺には、立派な梁(はり)や大黒柱を持った古民家が多く残っています。 100年以上の時を経て飴色に輝く太い梁、手仕事の跡が残る建具、土壁の質感。これらは、現在の一般的な新建材やプレカット工法では、どれだけ予算をかけても再現することが難しいものです。

「この太い梁を今の木材市場で調達したら、いくらかかるか想像もつかない」

そう語る建築家も少なくありません。歴史を刻んだ空間で暮らすという体験は、何物にも代えがたい贅沢と言えるでしょう。

理由2:資材高騰下の「賢い経済的選択」として

少し現実的なお話もしましょう。現在、ウッドショックや世界情勢の影響で、新築住宅の建築コストは数年前に比べて驚くほど上昇しています。

一方で、長野県内には立派な構造を持ちながら、住み手がいなくなった空き家が多く存在します。 もちろん、古民家の改修にはそれなりの費用がかかりますが、「基礎や構造体を再利用できる」という点は大きなメリットです。

予算の配分を「ゼロから骨組みを作る費用」ではなく、「断熱改修」や「キッチンなどの設備」に回すことで、トータルコストを抑えつつ、質の高い暮らしを実現する。これは非常に合理的な選択と言えます。

また、長野県や各市町村では、移住者向けの「空き家改修補助金」「耐震・断熱改修補助金」が充実しているのも後押しとなっています。

理由3:信州の自然とつながる「土間」のある暮らし

都市部のマンション暮らしでは叶えにくい、「内と外がつながる暮らし」への憧れも大きな要因です。

  • 広い土間(DOMA): 薪ストーブを置いたり、スキーやスノーボードのメンテナンスをしたり、農作業の泥付き野菜を置いたり。
  • 縁側: 夏はスイカを食べ、秋は月を愛でる。

信州の豊かな自然を生活の一部に取り込むには、現代の密閉された住宅よりも、古民家が持つ「余白」のある間取りの方が相性が良いのです。

しかし、「寒さ」はどうする?古民家再生のリアル

ここまで魅力を語ってきましたが、信州の古民家には決定的な弱点があります。 それは、「とにかく寒い」ということです。

「風情があって素敵だけど、隙間風で冬が越せないのでは?」 その不安は的中しています。昔ながらの古民家は、夏の暑さを逃がす造りになっており、断熱材が入っていないことがほとんどです。氷点下10度を下回ることもある信州の冬を、そのままの状態で過ごすのは命に関わります。

現代の技術で「寒さ」は克服できる

しかし、諦める必要はありません。現在は「性能向上リノベーション」という手法が確立されています。

  1. 窓の断熱強化: 熱の出入りが一番多い窓を、樹脂サッシやトリプルガラス、あるいは内窓(二重窓)に変更します。これだけで体感温度は劇的に変わります。
  2. ゾーン断熱(部分断熱): 家全体を断熱改修すると莫大な費用がかかります。そこで、LDKや寝室など、「普段生活するエリア」だけを魔法瓶のように高断熱化する手法です。広い古民家を有効に使いつつ、コストと暖かさを両立させる、信州で人気のテクニックです。
  3. 床下・天井裏の気流止め: 床下からの冷気の侵入を防ぐ工事です。地味ですが、足元の冷えを解消するには不可欠な工程です。

成功の鍵は「業者選び」にあり

信州での古民家再生を成功させるためには、「古民家の構造(伝統工法)」「現代の断熱理論」の両方を理解している専門家に依頼することが絶対条件です。

一般的なリフォーム業者では、伝統的な土壁の扱い方が分からず、ただ石膏ボードで塞いでしまったり、逆に、古いやり方にこだわるあまり断熱がおろそかになったりすることもあります。

「この梁は残しましょう」「ここは寒いから、しっかり断熱材を入れましょう」 そんなふうに、建物の声を聞き、現代の快適さを融合できるパートナーを見つけることこそが、理想の信州暮らしへの第一歩です。

まとめ:憧れを「計画」に変えるために

信州での古民家再生は、単なる家の購入ではなく、その土地の歴史や風土を受け継ぐ行為でもあります。

  • 魅力: 歴史的価値、経済的合理性、土間のある豊かな暮らし。
  • 課題: 厳しい寒さ。
  • 解決策: 窓断熱やゾーン断熱などの「性能向上リノベーション」。

冬の厳しさを知っている地元のプロフェッショナルとなら、古くて新しい、あなただけの暖かい住まいを作ることができます。 まずは、どんな暮らしがしたいか、夢を語ることから始めてみませんか?