別荘・寒冷地リフォーム

なぜ長野の家は寒いのか?一般的な住宅と信州の「寒冷地仕様」の決定的な違い

なぜ長野の家は寒いのか?一般的な住宅と信州の「寒冷地仕様」の決定的な違い

「朝起きたら、キッチンのオリーブオイルが白く固まっていた」 「窓の内側にびっしりと氷(結露)が張り付いて開かない」

これらは、長野県の古い住宅では冬の日常茶飯事です。 標高が高く、内陸性気候である長野県は、夜間の冷え込みが厳しく、地域によってはマイナス10度〜20度まで下がります。

しかし、最近の新築やリノベーション済み物件にお住まいの方は、「Tシャツ一枚で過ごしています」と涼しい顔(暖かい顔?)で言います。 この天と地ほどの差を生むのが、「寒冷地仕様」という建築基準です。

では、具体的に「普通の家」と何が違うのでしょうか?

1. そもそも、なぜ長野の古い家は寒いのか?

理由は大きく2つあります。

  1. 「夏」を旨とした家づくり: 日本の伝統建築は「夏の蒸し暑さを逃がす」ことに特化しています。風通しを良くするため、隙間が多く、断熱材が入っていない家がほとんどです。
  2. 断熱基準の地域差: 昔の基準(旧省エネ基準)では、長野県も東京もそこまで大きな差をつけて考えられていませんでした。そのため、壁に入っている断熱材が薄かったり、そもそも入っていなかったりします。

この状態で氷点下の冷気に晒されると、家の中の熱はどんどん奪われ、巨大な冷蔵庫の中に住んでいる状態になります。

2. ここが違う!信州の「寒冷地仕様」3つのポイント

「寒冷地仕様」とは、単なるキャッチコピーではなく、厳しい冬を乗り越えるための物理的なスペックのことです。

違い①:窓(サッシ)の材質

【一般地】 アルミサッシ + シングルガラス(またはペアガラス) アルミは熱伝導率が非常に高く、外の寒さをダイレクトに室内に伝えます。冬場、アルミ枠に触ると氷のように冷たいですよね。

【寒冷地】 樹脂サッシ + トリプルガラス(または高断熱ペア) 信州のスタンダードは「樹脂(プラスチック)」です。 熱を伝えにくい樹脂枠と、空気層を挟んだ3枚ガラス(トリプルガラス)を使うことで、窓辺の冷気(コールドドラフト)をシャットアウトします。 「窓にお金をかける」のが、信州の家づくりの鉄則です。

違い②:基礎の深さ(凍結深度)

これはあまり知られていませんが、決定的な違いです。

【一般地】 地面から浅い位置に基礎を作る 【寒冷地】 「凍結深度」より深く掘る

土中の水分が凍ると、霜柱のように地面が盛り上がります(凍上)。基礎が浅いと、家ごと持ち上げられて傾いてしまいます。 長野県では、市町村ごとに「凍結深度(とうけつしんど)」が決められており(例:軽井沢なら80cm〜など)、それより深い位置まで基礎コンクリートを埋めなければならないという厳しいルールがあります。

違い③:断熱材の厚みと気密性

【一般地】 壁内50mm〜100mm程度 【寒冷地】 壁内100mm以上 + 付加断熱(ダブル断熱)

ダウンジャケットを想像してください。薄手のものでは信州の冬は越せません。 寒冷地仕様の家は、柱の間に断熱材を入れるだけでなく、家の外側からも断熱材で包む「付加断熱」を行うなどして、魔法瓶のような保温性能を持たせます。

3. 設備も違う!水回りと暖房の常識

建物の構造だけでなく、設備機器も「寒冷地モデル」である必要があります。

水道の「水抜き」機能とヒーター

一般地の水道管は、外気が氷点下になると破裂します。 信州の家には、以下の装備が必須です。

  • 不凍水抜栓(ふとうみずぬきせん): ハンドルを回すと、水道管の中の水が地中に抜け、凍結を防ぐ仕組み。長期不在時や、極寒の夜に使います。
  • 凍結防止帯(ヒーター): 露出している配管に巻き付け、電気で温めるヒーター。

寒冷地用エアコン(ズバ暖、スゴ暖など)

「エアコンなんて冬は効かないでしょ?」というのは一昔前の話。 現在は、マイナス25度でもパワフルに動く「寒冷地向けエアコン」があります。 室外機に霜取り機能がついていたり、コンプレッサーが強化されていたりします。東京で買った普通のエアコンを持ってくると、真冬に止まってしまうことがあるので注意が必要です。

4. 古民家や中古住宅はどうすればいい?

「これから住む家は、寒冷地仕様じゃない…」 と落ち込む必要はありません。リノベーションで性能を上げることは可能です。

  1. 内窓をつける: 今ある窓の内側に樹脂サッシをつけるだけで、性能は寒冷地仕様に近づきます。
  2. 配管の対策: 露出している水道管にヒーターを巻き、保温材を厚く巻く。
  3. ゾーン断熱: LDKや寝室など、生活エリアだけを断熱改修する。

これらを行うだけで、「外より寒い家」から「安心して住める家」に変えることができます。

まとめ:信州の家は「スペック」で選ぶ

長野県への移住において、デザインや広さも大切ですが、「寒冷地仕様になっているか(断熱・窓・凍結対策)」の確認は、命と健康を守るための最優先事項です。

  • 窓は樹脂サッシか?
  • 水道の水抜きはできるか?
  • 断熱材はしっかり入っているか?

これから家を建てる方も、中古を探す方も、この視点を忘れずに物件を見てください。 しっかり対策された「暖かい家」さえあれば、信州の冬は、スキーに温泉、薪ストーブと、最高の楽しみに満ちています。