古民家再生

古民家再生の失敗しない「断熱」対策。信州の冬を越すための必須知識(床・壁・窓)

古民家再生の失敗しない「断熱」対策。信州の冬を越すための必須知識(床・壁・窓)

「古民家は夏をもって旨(むね)とすべし」 兼好法師の言葉通り、日本の伝統家屋は「夏の湿気と暑さを逃がすこと」を最優先に作られています。

つまり、冬のことはあまり考えられていません。 断熱材が入っていない土壁、隙間だらけの建具、薄いガラス一枚の窓…。これでは、外の冷気が入り放題、暖房の熱は逃げ放題です。

信州で古民家再生をする際、デザインや間取りよりも先に予算を配分すべきは、間違いなく「断熱」です。 では、どこから手をつければ良いのか? 効果の高い順に「窓・床・壁」の対策を見ていきましょう。

1. 【最優先:窓】 熱の出入り口を封鎖せよ

もし予算が限られているなら、全てを諦めてでも「窓」だけは対策してください。 なぜなら、冬場に家から逃げていく熱の約50〜60%は「窓(開口部)」から流出しているからです。

アルミサッシはNG!「樹脂」か「木製」を

信州の冬において、一般的な「アルミサッシ」は厳禁です。金属は熱を伝えやすいため、外気で冷やされた枠が結露し、ビショビショになるだけでなく、家全体を冷やす冷却装置になってしまいます。

  • 内窓(インナーサッシ): 今ある窓の内側にもう一つ樹脂製の窓をつける方法。工事も簡単で、費用対効果が最も高いです。古民家の雰囲気を壊さない「和紙調ガラス」や「格子入り」のデザインもあります。
  • 樹脂サッシ・木製サッシへの交換: 予算があれば、枠ごと「樹脂サッシ(トリプルガラス)」や「木製サッシ」に交換するのがベスト。世界基準の断熱性能を手に入れられます。

2. 【快適性:床】 「底冷え」との戦いに勝つ

「暖房をつけているのに、足元が氷のように冷たい…」 これは、床下の冷気が床板を冷やし、体温を奪っていく「底冷え」現象です。信州の古民家は床下が高く、風通しが良い(=寒い)のが特徴です。

床を剥がして断熱材を入れる

畳や床板を一度剥がし、大引(おおびき)や根太(ねだ)の間に、分厚い断熱材を隙間なく詰め込みます。

  • ポイント: ただ詰めるだけでなく、「気流止め」という処理が重要です。床下から壁の中へ冷たい空気が流れ込まないよう、通り道を塞ぐ工事です。これをしないと、せっかくの断熱材も効果が半減します。
  • 床暖房: 断熱施工をした上で床暖房を入れると、古民家とは思えない極上の快適空間になります。

3. 【保温性:壁・天井】 梁(はり)を見せるか、隠すか

壁と天井の断熱は、部屋の温度を長時間キープするために必要です。

壁:土壁の扱いがカギ

  • 内張り断熱: 土壁の内側に下地を組み、断熱材を入れてボードで仕上げる方法。部屋が少し狭くなりますが、確実な断熱効果があります。
  • 調湿する断熱材: 古民家の木材は呼吸しています。ビニール系の断熱材よりも、「羊毛(ウール)」や「セルロースファイバー(新聞紙のリサイクル)」など、湿気を吸ったり吐いたりできる素材が相性抜群です。

天井:屋根断熱で「梁」を見せる

古民家の醍醐味である立派な「梁(はり)」を見せたい場合、天井板を張らず、屋根の勾配に沿って断熱する「屋根断熱」を行います。 天井が高くなる分、暖房効率は下がるため、シーリングファンで空気を循環させるなどの工夫が必要です。

4. 予算を抑える裏技「ゾーン断熱(部分断熱)」

「家全体を完璧に断熱したら、新築より高くなってしまう…」 そんな場合に有効なのが、「ゾーン断熱」という考え方です。

広い古民家のすべてを暖かくする必要はありません。 LDK、水回り(風呂・トイレ)、寝室という「生活に不可欠なエリア」だけを区切り、そこだけを徹底的に高断熱化します。 使わない座敷や客間は、断熱工事をせず「寒いまま」にしておく。 このメリハリこそが、信州での古民家リノベーションを成功させるコストコントロールの秘訣です。

まとめ:信州の冬は「我慢」ではなく「技術」で越す

  • 窓: 熱の最大の逃げ道。樹脂製の内窓設置が必須。
  • 床: 底冷え防止のため、床下断熱と気流止めを行う。
  • 壁・天井: 建物の呼吸を妨げない断熱材を選ぶ。
  • 戦略: 予算に合わせて「ゾーン断熱」を活用する。

「古民家だから寒いのは仕方ない」というのは、ひと昔前の話です。 現代の建築技術を使えば、外は氷点下の雪景色でも、家の中はTシャツ一枚で過ごせる。そんな理想的な暮らしが実現できます。

これから物件を探す方、リノベーションを計画中の方は、ぜひ「デザイン」と同じくらい、いやそれ以上に「断熱」にこだわってください。それが、長く愛せる住まいを作る一番の近道です。