古民家の耐震はどこまで必要か|目安は評点1.0、長野県の補助は多くが最大165万円
古民家の耐震補強は、耐震診断の評点を1.0以上にすることが目安です。評点1.0は、長野県の資料で「震度6強〜7程度で倒壊する危険性が低い」とされる水準で、県の上乗せ補助と国の減税の条件にもなっています。工事費の目安は、日本建築防災協会の資料で延べ面積200㎡の2階建てで約270万円です(補助を使った木造住宅の事例による。2020年公表)。
この記事は、長野県で古民家を買う人、受け継いだ家を直して住む人に向けて、どこまで直すか、いくらかかるか、補助と減税はいくらかを、公的な資料の数字でまとめます。古民家は、柱を石の上に置くなどの伝統的な造りが多く、診断の方法を選ぶところから始まります。
目標は評点1.0以上:評点の意味と補助の関係
耐震診断では、建物の強さを「評点」という数字で表します。必要な強さに対して、いまの建物がどれだけの強さを持つかの割合です。日本建築防災協会は、次の4段階で示しています。
| 評点 | 判定 | 補助・減税との関係 |
|---|---|---|
| 1.5以上 | 倒壊しない | — |
| 1.0以上1.5未満 | 一応倒壊しない | 県の上乗せ補助(最大50万円)と、国の減税の条件 |
| 0.7以上1.0未満 | 倒壊する可能性がある | 市町村の補助は、工事後0.7以上を条件にするところが多い |
| 0.7未満 | 倒壊する可能性が高い | 補強の前の古い木造住宅の多くが、ここに入ります |
- 同協会は、改修後の評点の目安を1.0としています
- 木耐協(日本木造住宅耐震補強事業者協同組合)が診断した1980年以前の木造住宅14,631棟では、85.8%が評点0.7未満で、平均の評点は0.45でした(2025年10月発表。在来工法の2階建て以下が対象)
- 雪の多い地域(多雪区域)では、雪のない時と積もった時の両方で評点を出し、低いほうをその家の評点にします。雪の重さのぶん、地震の力が大きくなるためです
建てた年代で、地震の被害はこれだけ違う
耐震の基準は、1981年6月(新耐震基準)と2000年6月(柱と土台などのつなぎ方を明確にした基準)の2回、大きく変わりました。国土交通省の委員会は、2つの地震で木造の建物の被害を年代別に調べています。
| 建てた時期 | 熊本地震(益城町)で倒壊・崩壊 | 能登半島地震(輪島市・珠洲市・穴水町)で倒壊・崩壊 |
|---|---|---|
| 1981年5月以前 | 28.2%(759棟のうち214棟) | 19.4%(3,408棟のうち662棟) |
| 1981年6月〜2000年5月 | 8.7%(877棟のうち76棟) | 5.4%(893棟のうち48棟) |
| 2000年6月以降 | 2.2%(319棟のうち7棟) | 0.7%(608棟のうち4棟) |
- 古民家は、1981年より前、多くは建築基準法ができた1950年より前の建物です。表のいちばん上の区分に入ります
- 能登半島地震の調査では、補助を受けて耐震改修をした古い基準の木造38棟に、倒壊したものはありませんでした。無被害が13棟、軽微から中破が22棟、大破が3棟です(国土交通省の委員会 最終とりまとめ、2025年12月)
- 文化庁は、伝統的な木造建築は地震に耐えてきたという考え方について、長い間隔で起きる大地震に対しては危険だと述べています
長野県の地震:糸魚川-静岡構造線と、近年の被害
長野県を南北に通る糸魚川-静岡構造線断層帯について、国の地震調査研究推進本部は次の確率を公表しています(算定の基準日は2026年1月1日)。
| 区間 | 範囲 | 地震の規模 | 30年以内に起きる確率 |
|---|---|---|---|
| 北部 | 小谷村〜安曇野市 | M7.7程度 | 0.01〜16% |
| 中北部 | 安曇野市〜茅野市 | M7.6程度 | 14〜30% |
| 中南部 | 岡谷市〜山梨県北杜市 | M7.4程度 | 0.9〜8% |
| 南部 | 北杜市〜山梨県早川町 | M7.6程度 | ほぼ0〜0.1% |
出典は地震調査研究推進本部「糸魚川-静岡構造線断層帯」です。同本部は、確率が3%以上の活断層を、いちばん高い区分にしています。
- 2011年3月12日の長野県北部の地震(栄村で震度6強):住宅の全壊34棟、半壊169棟
- 2014年11月22日の長野県神城断層地震(最大震度6弱):住宅の全壊81棟、半壊175棟、一部破損1,818棟
- 長野県の住宅の耐震化率は約86%で、全国の約90%を下回っています(2023年)
古民家は、診断の方法を選ぶところから
柱を石の上に置く「石場建て」は、柱と基礎をつながない造りです。国土交通省の資料では、いまの建築基準法の標準的な決まりに合わないものとして扱われ、新築では高度な構造計算が要ります。古い家の診断でも、壁の量をもとにした計算は、数えられる部材の種類が限られ、強さも低めに見積もられます。文化庁の「伝統的建造物群の耐震対策の手引」は、診断の方法を次のように整理しています。
| 診断の方法 | 特徴 | 向いている場合 |
|---|---|---|
| 一般診断法 | 壁の量などから評点を出す、簡易な方法 | 補強が要るかどうかを知る最初の診断。伝統的な建物では、当てはめ方に注意が要ります |
| 精密診断法1(保有耐力診断法) | 壁の量をもとにした計算。一般の木造住宅でよく使われます。補強の量が多くなることがあり、補強は壁を増やす方法が中心です | 内装を大きく直し、壁を増やせる家 |
| 限界耐力計算(精密診断法2) | 建物の変形する力を見込む計算。伝統的な木造に適し、壁を増やす以外の補強も選べます。できる設計者が限られ、時間と費用がかかります | 内部の造りを残したい家、部屋の中に壁を増やしたくない家 |
- 同じ手引は、よくない補強の例として、つり合いを考えずに壁を増やすことを挙げています。建物がねじれるためです。土壁が中心の家は、土壁を増やす、厚くするなど、もとの造りに近い補強が望ましいとしています
- 県内の無料の耐震診断は、県の案内では「木造在来工法」の住宅が対象です。長野市は在来軸組構法の平屋と2階建て、松本市は木造の伝統的構法も対象、朝日村は伝統工法を「別途相談」としています
- 伝統的な造りの家は、診断と補助の対象になるかを、先に市町村の窓口に確かめてください
古民家の造りの特徴は古民家の建築の特徴で解説しています。
耐震改修の費用の目安
日本建築防災協会は、自治体の補助を使った耐震改修の事例から、延べ面積ごとの工事費の目安を出しています。
| 延べ面積 | 平屋 | 2階建て |
|---|---|---|
| 100㎡ | 約160万円 | 約180万円 |
| 150㎡ | 約200万円 | 約230万円 |
| 200㎡ | 約240万円 | 約270万円 |
| 250㎡ | 約270万円 | 約300万円 |
出典は日本建築防災協会「耐震改修工事費の目安」です。次の点に気をつけて読んでください。
- 2020年に公表された数字で、その後の値上がりは入っていません(協会が2025年4月に注意書きを加えています)
- 耐震改修の工事費の目安です。同時に行う内装、水まわり、断熱の費用は、別に考えます
- 建物の状態によるばらつきが大きいと、協会も断っています。実際の工事の中央値は、平屋で140万円、2階建てで186万円でした
- 木耐協の調べでは、補強工事をした人の平均は約167万円、中央値は140万円です。基礎のひび割れだけを直した工事も含み、2021年後半からの値上がりは入っていません
古民家で、建物を持ち上げて基礎をつくり直す工事や、限界耐力計算による設計の費用は、公的な相場の資料を確認できませんでした。建物ごとの差が大きいので、見積もりで確かめる項目です。再生の工事全体の費用は古民家再生の費用相場をご覧ください。
補助金と減税:2026年度の内容
| 制度 | 内容 | 主な条件 |
|---|---|---|
| 市町村の補助 | 工事費の5分の4以内、上限115万円(多雪区域は140万円) | 1981年5月31日以前に着工した住宅。工事後の評点0.7以上など |
| 県の上乗せ | 最大50万円。合わせて最大165万円(多雪区域は190万円) | 市町村の交付決定を受け、工事後の評点が1.0以上 |
| 所得税の控除 | 国が決めた標準的な工事費から補助金を引いた額(上限250万円)の10% | 1981年5月31日以前に建てた自宅。2028年12月31日までの工事 |
| 固定資産税の減額 | 工事の翌年度の1年分が2分の1 | 1982年1月1日以前からある住宅。工事費50万円超。2031年3月31日までの工事。完了から3か月以内に申告 |
- 県の資料の例では、費用175万円の工事で、市町村から115万円、県から50万円が出て、自己負担は10万円です
- 上限は市町村で違います。松本市は合わせて最大195万円、木曽町は最大200万円です。77市町村の額と受付の状況は長野県の耐震改修補助金 77市町村一覧にまとめています
- 市町村の交付決定の前に契約や着工をすると、補助を受けられません
- 減税の「いまの基準に合う」は、評点1.0以上で、地盤と基礎が安全であることです(国土交通省「リフォーム促進税制」)
断熱の補助と合わせた使い方は古民家再生の補助金、直したあとの固定資産税は古民家リノベーションと固定資産税で扱っています。
全体を直せないときの、段階的な方法と部分的な方法
国土交通省は「木造住宅の安全確保方策マニュアル」(2025年3月改訂)で、家全体の改修がすぐにできない場合の方法を示しています。
- 段階的に直す:将来は評点1.0以上にする前提で、まず全体を0.7以上にする(高知県の例)。または1階だけを先に補強する(金沢市の例)
- 部分的に直す:寝室や居間だけを補強する(耐震シェルター)、屋根を軽くする、防災ベッドを置く
- どちらも、大きな地震で倒れる危険が残ります。補強で建物のつり合いが崩れていないかを、設計者に確かめます。耐震シェルターは、揺れている最中にほかの部屋から逃げ込むのが難しい点も、マニュアルは挙げています
県内にも、部分的な対策に補助を出す市町村があります(2026年10月7日に確認)。
| 市町村 | 対象 | 補助 |
|---|---|---|
| 松川村 | 部分的な補強(壁・金物・基礎、屋根の軽量化)、耐震シェルター | 2分の1以内、上限40万円 |
| 諏訪市 | 部分的な改修、耐震シェルター | 2分の1以内、上限30万円 |
| 千曲市 | 耐震シェルター、耐震ベッド(1階に設置) | 2分の1以内、上限30万円 |
| 木曽町 | 耐震シェルター、耐震ベッド(1階に設置) | 3分の2以内、上限30万円 |
| 松本市 | 耐震シェルター、耐震ベッド | 2分の1以内、上限20万円 |
屋根については、文化庁の手引が、瓦の下に土を置く葺き方から土を使わない葺き方に変えて軽くする方法を挙げています。屋根だけを軽くする場合も、工事の前と後の評点を出してもらってください。
よくある失敗と、避け方
- 評点0.7〜1.0未満で計画してしまう:市町村の補助は出ても、県の上乗せと減税の条件に届きません。設計の段階で、工事後の評点を確かめます
- 補助の決定の前に契約する:交付決定のあとに契約と着工をします
- 壁を片側だけに増やす:間取りの都合で壁が片寄ると、建物がねじれます。補強の位置を図面で確かめます
- 耐震と内装を別々の時期に行う:壁の補強は、内装をはがして行うことが多い工事です。断熱や間取りの工事と同じ時期に計画できないかを、業者に相談します
見積もりと業者選びで確かめること
- 診断の方法:一般診断法か、精密診断法か、限界耐力計算か。伝統的な造りの家を診断した経験があるか
- 工事の前と後の評点:多雪区域では、雪が積もった時の評点も確かめます
- 補強する場所:日本建築防災協会は、補強の位置を示した平面図や写真で説明を受け、工事中の写真を残してもらうよう勧めています
- 耐震の工事費の内訳:補助の対象は耐震の工事と設計の費用です。ほかのリフォームと分けて書いてもらいます
- 証明書:減税には、建築士などが出す増改築等工事証明書か、市町村が出す住宅耐震改修証明書が要ります
業者の探し方は古民家再生の業者選び、見積書の読み方は古民家再生の見積もりで確かめることにまとめています。
よくある質問
古民家は揺れを逃がす造りなので、補強は要らないのでは
伝統的な木造が、変形しながら粘る性質を持つのは事実です。ただ、文化庁は「地震に耐えてきた」という経験だけで判断するのは危険だとしています。能登半島地震では、1981年以前の木造の19.4%が倒壊・崩壊しました。まず診断で、いまの評点を確かめてください。
評点1.5まで上げたほうがよいですか
評点1.5以上は「倒壊しない」という判定です。高いほど安心ですが、補強の量と費用が増えます。日本建築防災協会の目安も、県の上乗せ補助と減税の条件も、1.0以上です。1.0を満たしたうえで、どこまで上げるかを設計者と相談してください。
診断だけ、先に受けられますか
受けられます。県内では、1981年5月31日以前に着工した木造在来工法の戸建て住宅は、無料で診断を受けられます。申し込みは市町村の窓口です。伝統的な造りの家は、対象になるかを先に確かめてください。
まとめ
- 目標は評点1.0以上です。県の上乗せ補助と減税の条件でもあります
- 1981年以前の木造は、熊本地震で28.2%、能登半島地震で19.4%が倒壊・崩壊しました。耐震改修をした建物に、倒壊はありませんでした
- 古民家は、診断の方法で補強の内容と費用が変わります。伝統的な造りを診断できる設計者に頼みます
- 工事費の目安は、延べ200㎡の2階建てで約270万円です(2020年公表。値上がりは入っていません)
- 補助は、多くの市町村で県の上乗せと合わせて最大165万円です。交付決定の前に契約しません
- 全体を直せないときは、段階的な改修や耐震シェルターの方法があります。倒れる危険が残ることを知ったうえで選びます